この5月に、新藤兼人監督が亡くなった。満百歳。
新藤兼人は、長い下積みや脚本家としての経験を経て、49年に独立プロダクション近代映画協会を設立し、51年に「愛妻物語」で念願の監督デビューを果たしている。39歳であった。
60年には、後年妻となる音羽信子主演の「裸の島」を、わずかな予算と少数のキャスト、スタッフで撮り上げ、世界的に名を知られることになる。
その後も社会性の強い作品を作り続け、また、脚本家としても数々の傑作を残して高い評価を得ている。
11年の「一枚のハガキ」が遺作となった。98歳での作品である。
時は、太平洋戦争の末期。
招集された百人の中年兵のひとりとなった松山は、くじ引きで赴任先が決められた夜、仲間の森川から、彼の妻(それを演じる大竹しのぶが上手いというかすごい)からのハガキを渡され、もし松山が生き残ったら妻を訪ねて「確かにハガキを読んだ」ということを伝えてくれと頼まれる。
戦争が終わり、召集兵仲間で生き残ったのはたった6人だけだった。
そのひとりだった松山は、自分を待っているはずの妻に自分の父親とともに逃げられ、生きる望みもないような日々を送っていたが、ある日森川に託されたハガキを見つけて、彼の故郷を訪ねて行くのだった。
じっくりとカメラを据えた一見舞台劇のような演出で戦争の理不尽さを描いた物語であるが、とても98歳の作品とは思えぬ骨太のユーモアが底に流れる脚本がみごと。
2012.7.28