昭和のはじめ、東京の郊外の丘の上に赤いスレート葺きの屋根のかわいいおうちがありました。
雪深い山形から出てきたタキは、そのモダンなおうちに暮らす若い夫婦と男の子のもとで、女中として暮らしはじめたのでした。
タキにとって、奥様の時子はあこがれの存在で…。
こんな感じではじまる山田洋次の新作「小さいおうち」は、前半の少しメルヘンチックな描き方と主人公タキの晩年を演じる倍賞美津子のナレーション、さらに久石譲の音楽のおかげで、最初のうちは「ハウルの動く城」の続きでも見ているような奇妙な感覚にとらわれてしまう。
だが、そのなんの瑕疵もないように見える平和な一家の前に現れた板倉という若い男の存在が、おうちのなかにさざ波を立てはじめるのだ。
時子は板倉に魅かれ、板倉も時子に惚れている。
そして、タキは板倉も嫌いではないが、それ以上に時子を大切に思っている(もしかするとタキは?と思わせる描写もあったりして)。
このちょっと複雑な三角関係が、次第に近づく戦争の影とともに、のちの物語りへとつながってゆく。
山田作品には今まであまりなかった人物造形がなかなかに面白く、思っていた以上にいい出来の映画になっていた。
庶民の暮らしの描写のなかに、戦争そのものはほんの少ししか登場しないが、一見リアルそうに見えるよくできた「戦争のおとぎ話」より、戦争の痛みを強烈に投げかけてくるのは映画の持つ力の不思議さだ。
2014.2.22