家から少し行った「高橋」で「たそがれ清兵衛」の撮影をしているというので、ぶらぶら出かけた。
高橋の下の河原にカメラが据えられて、決闘のシーンを撮っているところだった。清兵衛役の真田広之が河原に駆け下りてきて、決闘が終わるまでのシーンを何度も撮り直している。
ふだんは、うつむきがちに静かに話しているという印象の強い山田洋次監督だが、さすがに現場にはきびきびとした「よーい、はいっ」という声が響いていた。
その風景を見ながら、それほど明るいとは言えぬ藤沢作品を、山田監督はどう料理するつもりなのかなあなどと考えていたのだ。
庶民に近い下級武士とはいえ、意にそわぬ刺客の役目を押しつけられてしまう男の話である。
ぽーんと突き抜けたような青空ではじまる「寅さん」とは対照的に、映画は、ほの暗い雪景色のなかの葬式のシーンで幕があいた。
抑えられた色調の画面のなかで進められてゆく物語は、生活のなかに、死というものが常に身近にあった時代の、それゆえにいっそう命の重みというものがずんと伝わってくるものだ。
が、だからといって、これはけして陰うつな映画ではない。貧しいながらも、慈愛に満ちた清兵衛一家の暮らしが、スクリーンの中に温かいものを漂わせているし、一転して、壮絶な立ち回りは鬼気迫るほどのできである。
その凄まじいまでの殺陣を真田広之とともに演じてみせた舞踏家の田中泯、清兵衛に思いを寄せる朋江役の宮沢りえのすがすがしさ、登場人物がみな、ぴたりと役にはまって見事なのだ。
2002.11.16