高倉健、6年ぶりの主演作「あなたへ」。
刑務所の指導技官の倉島は、亡き妻洋子(田中裕子)の遺言を受けて、その遺灰を海へ散骨するために、富山から彼女の故郷である長崎へと車で旅に出る。
お話としては、それ以上でもそれ以下でもない。
その旅の途中で出会う人びととの関わりを描いたロードムービーである。
いつの映画でもそうであるように、健さんはここでもよけいなことはあまり喋らない。
生前の妻とは、結構楽しそうに話をしていたようだが、彼女が亡くなってからは、やはり寡黙な男に戻ってしまったようだ。
洋子との出会いも、結ばれるきっかけの途中までは描かれるけれど、妻の抱えていた秘密の中身や、どんなプロポーズをしたのかは、語られることはない。
妻の遺言に戸惑いながら旅に出て、旅の途中で出会う人々の生き方にまた戸惑い、それでも律儀に誠実に生きてゆく倉島。
このフィルムの中での健さんは、主演ではあるけれど、ある意味狂言回しにまわって、ほかの人びとの物語を浮かび上がらせてゆく。 彼らは、それぞれに問題を抱えた人生を送っている人間たちだが、「悪党」は登場しない物語。
ある意味 これは、高倉健版「男はつらいよ」なのかもしれない。
あっさりしすぎているかもしれないが、それでいいのだ、と思える映画。
そこにいてくれるだけでいいというような役者は、高倉健が最後なのかもしれない。
2012.10.13