H・G・ウェルズ、そしてオーソン・ウェルズという二人のウェルズがいた。
H・G・ウェルズは、それまでの科学冒険小説をより思弁的で奥行きのあるものにして、SF小説の父と呼ばれるようになった人物。
その彼が1898年に発表したのが、火星人の地球襲来と、それに巻き込まれた人びとを描いた「宇宙戦争」である。
その物語の舞台をイギリスからアメリカに置き換えて、ニュース仕立てのラジオドラマにして放送したのが、かの名優オーソン・ウェルズだった。
第2次世界大戦の影が迫りつつある38年10月30日のその放送は、あまりに真に迫っていたために、本当に火星人が襲来したと信じこんだ人々が我がちに家を逃げ出し、大パニックになるという事件を引き起こしたことで有名である。
この物語は、さらに東西冷戦を背景とした53年にジョージ・パルの製作により最初の映画化がされ、舞台設定は現代となって核兵器が登場し、火星人の乗物も原作の三本足の機械ではなく、スマートなUFO的なものとして描かれている。
そして、今年のスピルバーグ版である。今、この物語がリメイクされたのは、9・11以降の世界情勢とけして無縁ではないだろう。
そのためか、今回の映画の方が、いろいろな点でむしろ原作に近い描き方になっていて、SFとしてというより、戦争難民映画として見た方がぴったり来る感じの作り方になっている。
ウェルズの古典が繰り返しドラマ化される理由はなんだろう?
それは「火星人襲来」が、裏返せば人類同士の不信感の現れにほかならないから、なのではないだろうか。
2005.7.23