子供のころの夏休み、秋の気配のする庭に立って夜空の星を仰ぎ見ていた…なんてことも遠い記憶の彼方だけれど、満天の星を眺めると、やはりそこはかとないロマンにかられてしまう。
宮沢賢治の見上げていた夜空は、もっと澄んで、それこそ降るような星で満たされていたに違いない。
「ではみなさんは、そういうふうに川だと言われたり、乳の流れたあとだと言われたりしていた、このぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか」という問いかけではじまるのが、「銀河鉄道の夜」だ。
ジョバンニとカムパネルラというふたりの少年を乗せた銀河を巡る汽車は、不思議に満ちたイメージと、「死と生」の暗喩がちりばめられた物語のなかを旅してゆく。
その物語の登場人物を猫におきかえて、みごとに賢治の世界を映像にしてみせたのが85年の「銀河鉄道の夜」である。
猫のキャラクターは、自身が賢治のファンであり、その世界に触発されて「アタゴオル物語」などを描き続けている漫画家の、ますむらひろしが担当している。
そして、物語の中にはタイタニック号の悲劇が登場するのだが、その乗客であった唯一の日本人の孫、細野晴臣の音楽がよりいっそう作品に深みを与えているのも興味深い。
ジブリアニメのような華やかさはないが(そういえば「千と千尋…」の電車のシーンは、銀河鉄道を強く意識していたように思う)あくまでも静かに抑えられた色調で描きだされた賢治の世界はこのうえもなく美しくいつまでも心に残る。
夏の終わりに、賢治の物語にひたる夜を過ごされてはいかがだろうか。
2006.8.26