今年の3月に、八十才でなくなった植木等。
その最後の出演作となったのが、阿部サダヲ主演の「舞妓Haaaan!!!」であった。
修学旅行のとき舞妓に出会った感激が忘れられず、「京都で舞妓はんと野球拳がしたい!」といういじましい想いだけで突き進む男が物語の主役。
その場のひらめきだけで次々と行動を起こし、調子よく成功していく展開や、あいまに挟まるショートミュージカルは、かつての植木等を中心とした「クレージー映画」などの東宝のお家芸を彷彿とさせる。
初監督だった「真夜中の弥次さん喜多さん」(05年)の演出はあまりいただけなかったものの、クドンカンこと宮藤官九郎の脚本は相変わらず調子が良い。
ただ、阿部サダヲのキャラクターもあって、植木等のような突き抜けた明るさと軽み、そしてスマートさにはだいぶ及ばなかったのは、仕方のないところかもしれないが。
植木等の「ニッポン無責任野郎」(62年)をはじめとする「クレージー映画」が作られたのは、高度経済成長時代といわれた昭和30年代から40年代の後半。
調子の良さと、口からでまかせの、ほとんど詐欺師まがいの行動でのし上がっていく男は、働きバチのように時代の流れに追われる人々にとっては、まさに一服の清涼剤のような存在だった。
実際の植木等は、スクリーンの人物とは対照的なひとだったようだが、昭和時代のコメディーを語る上では、やはりかかせない存在だろう。
「舞妓Haaaan!!!」で、スクリーンの奥に飄々と去っていった植木等に、改めてありがとう。
2007.7.21