「劒岳 点の記」
何故、山に登るのかと聞かれて「そこに山があるから」と答えたのは、イギリスの登山家マロリーだが(実は言っていないという説もあるが)、「劒岳」は、「そこに登るべき山があるから」を答えとして描いた作品だ。
明治39年、陸軍は国防のための日本地図完成を急いでいた。最後の空白地点、劒岳一帯の測量のために、測量手の柴崎芳太郎は、前人未到の劒岳登頂を命じられる。
そのころ、創設まもない日本山岳会も劒岳の初登頂を目指しており、軍の名誉のために、その競争にも勝たねばならぬという命令も同時に受けたのだった。
案内人の宇治長次郎らとともに劒岳に向かう柴崎たちの前に待っていたのは…。
ハリウッドばりのハラハラドキドキ映画に仕立てようと思えばいくらでもできる話だが、物語はドキュメンタリーを追っているかのように、淡々と進んでゆく。
これが初監督のベテランカメラマン木村大作が、CGを使わず、本物でしか造りえない光景をしっかりとフィルムに焼き付けている。
転落や滑落シーンなど、どうやって撮ったのかと思う迫力だ。
山頂への登山ルートが説明不足だったり、山岳会のリーダー小島烏水などの人物の描き方がいささかステレオタイプで、ドラマとしては物足りない部分もあるのだが、眼前に広がる山々の威容や、そこを黙々と登り続ける人間たちの姿に、そんなちっぽけなことも吹き飛んでしまう作品である。
2009.7.25