キネマ旬報のベストテンが発表された。
邦画の第1位は、昨年ここでもご紹介した「ディア・ドクター」。
洋画の第1位は「グラン・トリノ」だった。
ウォルトは、かつて自分が自動車工だったころ組立に携わったフォードのグラン・トリノを磨き上げ、ビールを飲みながらそれを眺めるだけが楽しみのような、頑固者の老人だった。
最愛の妻を亡くしたばかりの彼だったが、息子たちとも気まずいすれ違いの日々で、ひとり暮らしを続けていた。
そんなとき、隣りにアジア系のモン族の一家が越してくる。
彼らを見て「ねずみどもが…」とつぶやくようなウォルトだったが、朝鮮戦争で、同じアジアの若者たちを殺したことを心の重荷として引きずり続けてもいるのだった。
やがてその一家のタオという青年と姉のスーが関わりを持つようになったことから…。
身内や同族だからといって必ずしも同じ気持を分かち合えるとは限らないし、異文化の人間がいつも遠いだけの存在ではない…そんな思いが心にしみてくる映画だ。
監督主演は、この作品を最後に役者業からは引退を表明したクリント・イーストウッドである。 マカロニウエスタンやダーティハリーで拳銃を撃ちまくっていた彼が、ここまでの名監督になろうとは、当時は想像もし なかったことだが…。
「矜持をもって生きる」
とはどういうことか、イーストウッドは、いつもそれを自分の作品で伝えようとしているようだ。
2010.1.30